ほっと・ケアライフ通信
第15回 地域支援事業充実分に係る上限の取り扱い及び任意事業について(後編)
介護予防・日常生活支援総合事業に移った場合の予算の上限についてご説明させていただく前に、介護予防・日常生活支援総合事業の業務内容について「介護保険最新情報 Vol.423」の表を使いご説明させていただきます。
上の表(厚生労働省 介護予防・日常生活支援総合事業ガイドラインより)のとおり介護予防・日常生活支援総合事業(地域支援事業)は、新しい総合事業・包括的支援事業・包括的支援事業・任意事業・で構成されています。
- 新しい総合事業 (1)介護予防給付事業
- 包括的支援事業 介護予防・日常生活支援総合事業による包括的支援事業は、現行の包括的支援事業に加え新しく4つの事業を加えたものになります。
- 任意事業
現行の任意事業は実施要項に記載されている事業以外でも、地域の実情に応じて、様々な事業が実施可能でした。しかし、今回の介護予防・日常生活支援総合事業による任意事業では、実施できる事業内容が各市町村で明確化され、実施要項に記載されている事業しか行えなくなります。以下の内容が新しい任意事業が案として出されています。(1)介護給付費等費用適正事業
■主要介護給付費等適正化事業
■介護給付費分析・検証事業
■介護サービス事業者への適正化支援事業
(2)家族介護支援
■認知症高齢者見守り事業
■介護教室の開催
■介護自立促進事業
■介護者交流会の開催
■健康相談・疾病予防等事業
(3)その他
■成年後見制度利用支援事業
■地域資源を活用したネットワーク形成に資する事業
■福祉用具・住宅改修支援事業
■認知症サポーター養成事業
■介護サービスの質の向上に資する事業
■高齢者の安心な住まいの確保に資する事業
■家庭内の事故等への対応の体制整備に資する事業
■重度のALS患者の入院におけるコミュニケーション支援事業
■認知症対応型共同生活介護事業所の家賃等助成事業
①内容
現行の介護予防給付事業(訪問介護、通所介護、訪問看護、福祉用具等)のうち、訪問介護と通所介護の予防給付事業が新しい総合事業に移行になります。
②実施者
指定事業者
(2)介護予防・生活支援サービス事業
実施方法 | 概要 | 想定される実施例 |
①市町村の直接実施(サービスC) | 市町村の職員が直接利用者に対して支援等を実施する。 | 保健師やリハビリテーション専門職等が行う短期集中予防サービス |
②委託による実施(サービスA) | 介護サービス事業者やNPO・民間企業に、要支援者等に対する支援等の提供を委託する。 | 生活援助やミニデイサービス |
③NPOやボランティア等への補助(サービスB・D) | 地域のNPOやボランティア等に対して、要支援者に対するサービス提供などを条件として、その立ち上げ経費や活動に要する費用に対して補助(助成)する。 | 生活支援や通いの場 |
訪問介護の新しい総合事業(厚生労働省 介護予防・日常生活支援総合事業ガイドラインより)
通所介護の新しい総合事業(厚生労働省 介護予防・日常生活支援総合事業ガイドラインより)
(2)一般予防事業①目的
■市町村の独自財源で行う事業や地域の互助、民間サービスとの役割分担を踏まえつつ、高齢者を年齢や心身の状況等により分け隔てることなく、住民主体の通いの場を充実させ、人と人のつながりを通じて、参加者や通いの場が継続的に拡大するような地域づくり
■地域においてリハビリ専門職等を活かした自立支援に資する取組を推進し、要介護状態になっても生きがい・役割をもって生活できる地域を構築することにより、要介護状態等となることの予防など介護予防の推進
②事業実施者
市町村
③事業内容
■住民主体の通い場を充実させるために、介護予防に関するボランティア等の人材を育成するための研修や、介護予防に資する地域活動組織の育成及び支援を行う。(介護予防普及啓発事業・地域介護予防活動支援事業)
②地域における介護予防の取り組みを強化するために、通所、訪問、地域ケア会議、住民運営の通いの場へのリハビリテーション専門職等の関与を促進する(地域リハビリテーション活動支援事業)
③地域の実情に応じて招集した情報等(民生委員等からの情報など)の活用により、閉じこもり等の何らかの支援を要するものを把握し、介護予防に資する活動へつなげる(介護予防把握事業)
【現行の事業】
■介護予防ケアマネジメント業務
■総合相談支援業務
■権利擁護業務
■包括的・継続的ケアマネジメント支援業務
【新しく加わる4つの事業】
■生活支援体制整備事業・・・高齢者のニーズとボランティア等の地域資源との様な主体による生活支援を充実させる。
■認知症施策推進事業・・・早期診断・早期対応等により、認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けられる支援体制づくりなど、認知症施策を推進する。
■在宅医療介護連携事業・・・地域医師会等との連携により、在宅医療・介護の一体的な提供体制を構築する。
■地域ケア会議の推進事業・・・多職種協働による個別事例のケアマネジメントの充実と地域課題の解決による地域包括ケアシステムを構築する。
この任意事業の見直しの理由について「介護保険最新情報 Vol.423」では、「社会保障4経費(年金、医療、介. 護、少子化のための経費)として消費財源を充当できる事業であることからも、使用範囲を明確化する必要があるため」としています。実施要項にないものも必要に応じて事業として行っているため、事業全体を把握することが困難になり、収拾がつかなくなっている現行の任意事業の状態が伺えます。
長くなりましたが続いて、介護予防・日常生活支援総合事業に移った場合の予算の上限についてご説明させて頂きます。平成27年度以降の新しい総合事業と包括的支援事業の・任意事業の予算につきましては、厚生労働省が発表している「介護保険最新情報 Vol.423」によりますと以下の通りになります。
現行の予算制度と違い、前年度の予防給付等の実績額を基準とした金額+新しい包括的支援事業分の標準額で決定されるものになっています。
地域支援事業の予算の上限の計算方法の見直しの理由について、「介護保険最新情報 Vol.423」では、次の2つの理由を挙げています。
①現行制度は介護給付費の高さに連動する仕組みであることから、仮に高齢者人口が同程度の自治体でも、介護予防事業の推進や介護給付の適正化に積極的に取組む自治体は介護給付費が相対的に低く、結果として包括的支援事業・任意事業の上限額も低くなることから、人口規模に応じたセンターの体制確保に支障でること。
②介護給付費の規模が小さい小規模な自治体では、専門職の配置に最低限必要な費用の確保に支障がでること。
以上の2つの理由から地域支援事業の予算が、各自治体の介護給付費の高さに連動する仕組みから、高齢者人口に連動する仕組みに見直されたとしています。
しかし、見直しされた計算方法も前年度の実績額に高齢者の増加率を乗じる計算になっております。上記①のような理由で、現況を反映していない不当に低い上限額の時の実績額が計算の主体となります。この計算方法でどこまで上記①や②のような問題を解消できるかは疑問が残ります。
最後に、平成27年度、28年度において新しい総合事業を実施しない場合についてご説明させていただきます。平成27年度、28年度において新しい総合事業を実施しない場合の地域支援事業の予算の上限額は次の通りになります。
上の図を見ると、既存事業分に新しい包括的支援事業分の標準額が加わっています。このことから、新しい総合事業を実施しない場合でも新規4事業については実施しなければならないことが読み取れます。
平成27年2月に厚生労働省により発表された「地域支援事業充実分に係る上限の取り扱い及び任意事業の見直し」についての考察になります。