ほっと・ケアライフ通信
第3回 平成27年の介護報酬改定等についての議案(通所介護編)「前編」
介護保険制度では、3年ごとに介護保険事業計画を作成することとされています。平成27年は、この3年目にあたり、計画に基づき介護保険報酬についても改正される予定です。以下に厚生労働省が公表した平成27年の介護報酬改定等についての議案(通所介護)について考察したいと思います。
このたびの議会は通所介護事業所等について、重度の介護利用者を中心とした更なる自立支援、総合事業への移行、報酬の適正化を主な議題とし、11の論点について案を出すというものでした。以下ではその11の論点についてご紹介をさせて頂きます。
少々長くなりますので、前編と後篇に分けて掲載させていただきます。
まず前編では、論点1 重度の介護利用者の自立支援と認知症の方への対応のご紹介をさせて頂きます。
論点1 重度の介護利用者の自立支援と認知症の方への対応
重度の介護利用者や認知症の高齢者の方は、今後増え続けていくことが見込まれています。重度の介護利用者や認知症の高齢者の方が、在宅生活を継続していくためには、通所介護(デイサービス)の存在は、非常に大きなものになってまいります。そこで、今回の議会では、重度の介護利用者や認知症の高齢者の在宅生活の継続のため必要な「認知症対応機能」、「重度者対応機能」、「心身機能訓練から生活行為力向上訓練まで総合的に行う機能」の充実と報酬上の評価について、以下の①、②の2つの論点で議論が行われました。
① 重度の介護利用者や認知症の高齢者の方を積極的に受け入れて、在宅生活の継続に資するサービスを提供している事業所の評価、及び認知症高齢者や重度要介護者を一定以上受け入れ、かつ体制を確保している事業所の加算について。
これから、図1~図4までの表を使って、重度の介護利用者や認知症の高齢者の方の通所介護の利用状況を考察していきます。
図1 要介護度別の通所介護利用人数上記の図1は、介護度別の通所介護の利用割合になります。要支援制度が出来た平成18年から平成25年まで、大きな変化はないことが分かります。
社会保険審議会の発表によりますと、平成24年の通所介護の利用者数は、約1,600,000人となっております。図1の平成24年のデータで計算しますと、要支援1の利用者が約219,200人、要支援2の利用者が約217,600人、要介護1の利用者が約400,000人、要介護2の利用者が約352,000人、要介護3の利用者が約208,000人、要介護4の利用者が約128,000人、要介護5の利用者が約80,000人となります。
図2 介護度別人数上記図2は、介護度別の人数がグラフとなっています。平成24年のデータでは、要支援1が約692,000人、要支援2が約712,000人、要介護1が約970,000人、要介護2が約952,000人、要介護3が約724,000人、要介護4が約670,000人、要介護5が約609,000人となっております。
図1・図2の2つのデータから、要支援1~要介護3までの方の通所介護の利用率は約34.5%、要介護4と要介護5の方の通所介護の利用率は約15.9%になります。重度の要介護者の方の通所の利用率は、軽・中度の要介護者の利用率の半分未満になっていることがわかります。
図3 認知症の段階別、通所介護の利用人数上記図3には、アンケートに答えた事業所の日常生活自立度別の合計利用人数が記されており、通所介護に通う合計54,173人のデータになります。上述しましたように、実際に通所介護を利用しているのは、約1,600,000人です。1,600,000÷54,173=29.535…となり、上記図3の左の表の各段階の人数に29.54倍をすると、おおよその全ての日常生活自立度別の通所介護利用人数が推測できます。
上記図3の左の表の各段階の人数を29.54倍にしていくと、認知症なしの方の通所介護利用人数は約526,107人、Ⅰの方の通所介護利用人数は約338,351人、Ⅱの方の通所介護利用人数は約475,004人、Ⅲの方の通所介護利用人数は約200,396人、Ⅳの方の通所介護利用人数は約47,884人、Мの方の通所介護利用人数は約12,555人と推測されます。
図4 認知症ランク詳細上記の図4は、認知症のランクについての説明になります。上記図4から重度の認知症は、Ⅲ以上からと一般的にされています。
2014年の日常生活自立度別の人数は、2002年の厚生労働省の推計によりますと、認知症なし~Ⅱまでの方が約2,500,000人、Ⅲ~Мの方が約1,350,000人となっております。上述した、図3からの日常生活自立度別の通所介護の利用人数の推計によると、認知症なし~Ⅱまでの方が約1,339,462人、Ⅲ~Мの方が約260,808人となります。この推計された数字を基に利用率を計算すると、認知症なし~Ⅱまでの方の通所介護利用率は約53.6%、Ⅲ~Мまでの方の通所介護利用率は約19.3%となり、重度の認知症の方の通所介護利用率が、著しく低いことが分かります。
このように重度の介護利用者や認知症の方の通所介護の利用は、まだまだ低いものとなっております。今後、重度の介護利用者や認知症の方が増えていくことがみこまれている中、重度の介護利用者や認知症の方が在宅生活を長く継続していくためには、通所介護の「認知症対応機能」、「重度者対応機能」、「心身機能訓練から生活行為力向上訓練まで総合的に行う機能」が必要となっています。このことから、①の問題に対して議会では、
次のような対応案をだしました。
次のいずれかの要件を満たし、介護職員又は看護職員を指定基準により、常勤換算法方法で、複数以上加配している事業所を報酬の加算で評価する。
1.利用者のうち、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上を一定割合以上受入れ、かつ、認知症介護指導修了者研修、認知症介護実践リーダー研修又は認知症介護実践者研修を修了した者を提供時間を通じて専従で1以上配置している。
2.利用者のうち要介護度3以上の利用者を一定割合以上受入れ、かつ、看護職員を提供時間を通じて専従で1以上配置している。
地域で在宅生活が継続できるよう、生活機能の維持・向上に資する効果的な支援を行う事業所を適切に評価するため、現行の個別機能訓練加算について、実効性を担保する仕組みや加算の算定要件を見直しについて。
個別機能訓練加算は(Ⅰ)と(Ⅱ)の2つに分かれており、上記の表は、現行の通所介護の個別機能訓練加算(Ⅰ)と(Ⅱ)についての表です。個別機能訓練加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は、上記の表に示されている違いがあるように、創設された目的も異なります。(Ⅰ)の目的は、「利用者の自立支援と日常生活の充実」、(Ⅱ)の目的は、「残存する身体機能を活用して生活機能の維持・向上をを図ることで、居宅での自立した暮らしを続けてもらうこと」、になります。
そして、上記表の機能訓練項目では、個別機能訓練加算(Ⅰ)は、複数種類の機能訓練が訓練項目となり、個別機能訓練加算(Ⅱ)は、利用者やご家族と相談をして目標設定をし、それから機能訓練をすることが訓練項目となってます。
上述した、個別機能訓練機能加算の(Ⅰ)と(Ⅱ)の目的と訓練項目から考えると、個別機能訓練機能加算(Ⅰ)は、身体機能の向上、個別機能訓練機能加算(Ⅱ)は、身体というよりも、目標を設定するなどをして、本人の精神的な面を向上させたいことが読み取れます。
しかし、実際には次のような機能訓練が、行われています。
上記のグラフを見ると、個別機能訓練加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の訓練項目がともに(Ⅰ)の目的であるリハビリトレーニングが中心で、個別機能訓練加算(Ⅱ)は、本来の目的とは異なる形で加算されていることが分かります。
この問題に対し議会では、個別機能訓練加算(Ⅱ)の目的趣旨を明確にしするとともに、それぞれの加算の実効性を担保するため、それぞれの趣旨に沿った目標設定や実施内容等の項目を明示し、それらの項目を含んだ取り組みを行った場合に評価する、という対応案を出しました。
この他にも、個別機能訓練加算については、利用者の住まいに訪問し、どのような生活状況及び家族状況にあるかを把握して機能訓練を行うことは、在宅生活の継続の支援に効果的なため、個別機能訓練加算の算定要件に居宅を訪問したうえで、計画を作成することを算定要件に含めることも案として出されました。