ほっと・ケアライフ通信
第2回 平成27年の介護報酬改定等についての議案(訪問介護)についての考察
介護保険制度では、3年ごとに介護保険事業計画を作成することとされています。平成27年は、この3年目にあたり、計画に基づき介護保険報酬についても改正される予定です。以下に厚生労働省が公表した平成27年の介護報酬改定等についての議案(訪問介護)について考察したいと思います。
このたびの議会は訪問介護事業所について、中重度の介護利用者を中心とした更なる自立支援とともに、質の高いサービス提供を実現していくために、5つの論点について案を出すというものでした。以下ではその5つの論点についてご紹介をさせて頂きます。
論点1 20分未満の身体介護の現状について
今回の議会で20分未満の身体介護については、大きく3つの問題点が取り上げられ、その改善について議論されました。3つの問題とは、①他の身体介護と比べ1分当たりの点数が高いため、利用が急増していること、②夜間や早朝の利用は、日中と比べ算定基準が著しく緩くなるため、早朝や夜間に利用している者がほとんどであること、③20分未満の身体介護が、有料老人ホームとサービス付高齢者向け住宅でほとんど利用されていること、の3つです。
最初に①の問題点について、考察していきます。
上記の表は、2013年と2012年の訪問介護費の比較表になります。訪問介護費全体を見ますと、緩やかな増加となっておりますが、そのうち20分未満の身体介護については、急激に増加しております。1分当たりの点数単価が高いこと(基本報酬としては、20分未満の身体介護の場合20分で171点だが、1時間の身体介護では、60分で404点)、介護サービスを利用する本人や家族からの需要が大きいということの2つが大きな理由として考えられます
次に②の問題点について、考察していきます。
20分未満の身体介護には、算定する場合に、以下の要件が必要となります。
上記の表のように、日中に20分未満の身体介護を行う場合は、算定要件が厳しく決まっており、要件を満たすことは難しくなっております。一方、夜間から早朝に20分未満の身体介護を行う場合は、算定要件がなしという措置が取られています。そのため、日中には20分未満の身体介護を利用することが出来ない要介護1、要介護2の方の夜間から早朝の20分未満の身体介護の利用が急増しています。もともと20分未満の身体介護は、1日に多くの介護を要する中重度の介護利用者のために利用するものであるため、軽度の介護者の利用は目的に沿ってないと考えられます。
最後に③の問題点について考察していきます。
最後の問題点は、20分未満の身体介護を利用する方の住居になります。
上記の表を見ますと、20分未満の身体介護の利用をしている方の住居は、外部サービス利用型住居(有料老人ホーム等)が46.5%、サービス付け高齢者向き住宅が22.6%になっており、合計すると69.1%の利用者が外部サービス利用型住居とサービス付き高齢者向け住宅に住んでいることがわかります。この背景には、外部サービス利用型住居やサービス付高齢者向け住宅は24時間ヘルパーが常駐している場所が多く、深夜から早朝のサービスの提供がしやすいためだと考えられます。
上記の3つの問題から、今回の議会では20分未満の身体介護の算定について、上記①の問題に対しては、「20分未満の身体介護を算定する利用者に係る1月当たりの訪問介護費は、定期巡回・随時対応型訪問介護(訪問介護を行わない場合)における当該利用者の要介護度に対応する単位数の範囲内とする」ことが案として出された。つまり、要介護1なら6,707点の、要介護2なら11,182点の範囲内で20分未満の身体介護を利用しなければならないことになります。ちなみに、要介護1の利用限度額は16,692点、要介護2の利用限度額は、196,160点となっております。上記②の問題については、夜間~早朝の時間帯であっても、日中時間帯と同様に、要介護3であって、一定の条件を満たす場合に限り算定を認めることが案として出された。上記問題③については、20分未満の身体介護を算定する場合に、同一居住者へのサービス提要に係る減算割合を引き下げることが提案されました。
論点2 サービス提供責任者の配置等の見直し
今回の議会では、在宅中重度介護利用者への対応の強化のために、サービス提供責任者の配置等についての議論も行われました。今回の議論で問題となっている点は、(1)1事業所当たりのサービス提供者が減少している事、(2)訪問介護事業者のうち要介護3以上の者が半数を占める割合は、4割に満たず、大半を特養等の介護保険施設の利用に頼っている事、(3)訪問介護事業所の1事業所当たりの利用者数は、80人未満の利用者の事業所が約9割を占める、の3点です。 この3つの問題に対して、議会では、2つの提案がされました。①中重度の要介護者を重点的に受け入れており、一定の人員基準を上回る常勤のサービス提供責任者を配置する事業所については、特定事業加算による加算が算定することが提案されました。現在の特定事業所加算から考えると、所定単位数の10%~20%程度の加算が予想されます。この提案は(2)の問題に対する提案だと考えられます。
②複数のサービス提供責任者が共同して利用者に係る体制や、利用者情報共有などサービス提供責任者が行う業務について効率化が定められている場合には、サービス提供責任者の配置基準を「利用者50人に対して1人以上」に緩和する(現行では40人に1人以上)ことが提案された。この提案は上記(1)と(3)の問題点に対する提案だと考えられる。
このことからも、サービス提供責任者の数を増やして、サービス提供責任者の質を落とすよりも、サービス提供責任者1人あたりの利用者の数を増加させることで、サービス提供責任者の質を守ろうとする考えが読み取れます。これは、論点3にも繋がる考え方になります。
論点3 訪問介護員2級課程修了者(ヘルパー2級)であるサービス提供責任者に係る減算の取り扱いについて
現在では、訪問介護員2級課程修了者でも実務経験が3年以上であれば、サービス提供責任者の任用要件を満たすことが暫定的に決まっています。今回の議会では、この暫定的処置についても、議論がされています。サービス提供責任者の配置基準について、①「訪問介護員2級課程修了者でも実務経験が3年以上の者はサービス提供責任者になれる」という任意要件は、制度創設以来の「暫定的な要件」であること、②サービス提供責任者のうち介護福祉士である者は着実に増加しており、訪問介護2級修了者である者は、9.0%であること、③訪問介護員2級修了者であるサービス提供責任者に係る減算の算定事業所数は、全体の1.2%であること、の3点について議論が行われました。上記①~③の論点については、訪問介護員2級修了者であるサービス提供責任者について、平成27年4月から、サービス提供責任者減算の減算率を引き上げ、平成30年には、この暫定的な任意要件を廃止する方針が提案された。平成27年に引き上げられる予定の減算率については、「訪問介護員3級修了者である訪問介護員に係る減算」の取り扱いに準じ、-30%(現在は-10%)にする案が挙げられている。今回の訪問介護員2級修了者であるサービス提供責任者に関する取り扱いからは、サービス提供責任者の水準を保とうとする動きが見受けられます。この動きは、サービス提供責任者の人数を増やすことではなくサービス提供責任者の利用限度人数を増やすことを可能とした、平成24年に訪問介護のサテライト事業の制定に引き続いて行われているものと考えられます。
論点4 生活機能向上連携加算の見直しについて
訪問介護の大きな目的の1つである、介護サービス利用者の自立支援についても今回の議会で議論され、リハビリテーション専門職の意見を踏まえた訪問介護の作成の促進が論点となりました。この論点に対し議会では、「通所リハビリテーションのリハビリテーション専門職が、利用者の居宅を訪問する際に、サービス提供責任者が同行した場合も加算対象とする」という提案がされました。これは現在規定されている、「訪問リハビリテーションを行った際に、サービス提供責任者が同行し、リハビリテーション専門職と利用者の身体の状況等の評価を共同して行う」場合に算定されている生活機能向上連携加算(100単位)の算定を緩和したものです。現行の算定要件では、利用者の身体の状況を考慮して、サービス提供責任者は訪問介護計画を策定しければならなく、そのことが訪問リハビリテーションと訪問介護の連携を困難としている大きな一因でした。しかし、今回の提案が実現されると、より多く訪問リハビリテーションと訪問介護事業所との連携が取りやすくなることが考えられます。
論点5 新しい総合事業に対する対応
新しい総合事業に対する対応として、訪問介護事業者が、訪問介護事業と総合事業における訪問介護事業所を、同一の事業所において一体的に運営する場合の人員・設備の取り扱いについても、今回議論されました。このたびの総合事業化で、予防訪問介護事業は、現行の訪問介護事業とは切り離し、①現行の訪問介護相当のサービス、②緩和した基準によるサービス、③住民ボランティア・住民主体の自主活動、④短期集中予防サービス、⑤移動支援サービスの5つに分類されることが予定されています。 この5つのうち、人員基準、設備基準や運営準が定められているのは、①の現行の訪問介護相当のサービスと②の緩和した基準によるサービスになります。そこで、今回の議会では、訪問介護事業者が、訪問介護事業と総合事業における訪問介護事業所を、同一の事業所において一体的に運営する場合の人員・設備の取り扱いについて、(1)訪問介護と「現行の訪問介護相当のサービスを一体的に運営する場合、(2)訪問介護と「緩和した基準によるサービス」を一体的に運営する場合、について議論が行われました。
この議論では、人員・設備の取り扱いについて、上記(1)の場合は、現行の介護予防訪問介護に準じるものとすること、上記(2)の場合は、現行の訪問介護職員等の人員基準が必要となること、が提案されました。
(1)、(2)の基準ともに、サービス提供責任者の人数は、要介護者数では介護給付の基準(利用者35人に1人)を満たすことが必要で、要支援者に対しては「必要数」を必要とすることが予定されています。
以上の5つの論点が、平成27年度介護報酬改定に向けて訪問介護関係等を議題とした議会の論点になります。
訪問介護については、今後、中重度者に対するサービスの提供に限る方向性が見え隠れする改正となっています。
軽度者に対するサービスの提供については、総合事業の緩和した基準(いわゆるA型)の指定により、訪問介護事業者が今後も続けられる事としているものの、採算性については、市町村の報酬の発表によるところが大きく、不透明です。
現段階では、総合事業の移行期間に、訪問介護については、中重度者の身体介護サービスで事業が成り立つようにすることが大事だと思われます。